東洋医学概論
東洋医学の特徴
●人体の形と機能とが、天地自然と相応しているとみられる思想を、天人合一(天人相応)思想という。
●陰と陽という対立する概念によってあらゆる事象を分類し、その相互作用や盛衰・転化を考えるものを陰陽学説という
●自然界や人間などの様々な現象を木・火・土・金・水の5つの性質に分類し、その関係性を考える古代中国の哲学理論を五行学説という。
●身体に必要な精気(正気)の不足、機能の低下した状態を虚といい、治療方法は補法である。
●邪気が旺盛な状態、あるいは生理物質などが停滞した状態を実といい、治療方針は瀉法である。
●病の本質的な病態を本といい、結果として表に現れてくる症状を標という。
●証に基づいて治療方針を決定することを髄証療法という。
陰陽学説
●陰の特徴は、暗い、寒冷的、下降的、内向的、静的なものである。
●陽の特徴は、明るい、温熱的、上昇的、外向的、動的なものである。
●陰と陽は相反する属性で成り立っていることを対立という。
●対立した組み合わせは、どちらか一方だけでは成立しないことを互根という。
●対立した組み合わせは、互いに制約し合っていることを制約という。
●陰陽の量が増えたり減ったりすることを消長という。
●消長を繰り返すためには、ある一定のところで増加は減少に、減少は増加に転化することを転化という。
●陰陽に分けることができ、条件によって細分化することができることを可分という。
●臓を陰陽で分けると、心は陽の中の陽、肺は陽の中の陰、肝は陰の中の陽、腎は陰の中の陰となる。
自然界における陰陽の表
陽 | 明 | 温 | 熱 | 火 | 上 | 動 | 東 | 南 | 天 | 進 | 雄 | 剛 | 凸 | 白 | 奇数 | 浮 | 昇 |
陰 | 暗 | 冷 | 寒 | 水 | 下 | 静 | 西 | 北 | 地 | 退 | 雌 | 柔 | 凹 | 黒 | 偶数 | 沈 | 降 |
人体における陰陽の表
陽 | 男 | 背 | 外 | 表 | 腑 | 気 | 生 | 熱 | 魂 | 働き | 作用 |
陰 | 女 | 腹 | 内 | 裏 | 臓 | 血 | 死 | 寒 | 魄 | 物 | 形体 |
生理物質の生理
●生理物質を陰陽に分けると、気は陽、血、津液、精は陰に分類される。
気
●気を来源から分類すること、先天の精から化生されるものに原気があり、後天の精から化生されるものに宗気・営気・衛気がある。
●人体の最も根本的な気で、生命活動の原動力となるものを原気(元気)といい、三焦を通って全身に分布する。
●水穀の精微と自然界の清気から化生され、胸中に集まり、心肺の活動を支えるものを宗気という。
●宗気の働きは、呼吸や発声、心拍数(血の運行)と関係する。
●豊かな栄養分を持ち、血の一部として脈中に入り全身をめぐり、組織・器官の活動を支えるものを営気という。
●活動性が高く動きが速く、脈外をめぐり全身に分布するものを衛気という。
●衛気の働きは、外邪の侵襲を防ぐ、全身を温め養う、腠理の開闔する、昼夜で分布部位が異なる等がある。
気の作用
推動作用 | 人体の生理作用を促進させる |
温煦作用 | 組織・器官を温める |
固摂作用 | 生理物質が流失するのを防ぐ |
防衛作用 | 外邪の侵襲を防ぐ |
気化作用 | 各種の変化を引き起こす |
精
●精には、父母から受け継いだ先天の精と、飲食物を摂取して得られる後天の精(水穀の精)がある。
●精は腎に貯えられる。
●精の作用には、生殖、滋養、血への化生、神の維持がある。
血
●血の作用には滋養、神の維持がある。
津液
●津液のうち、動きやすい性質のものを津といい、流動性が低いものを液という。
●津液の働きには、滋潤、濡養、血脈を満たす等がある。
生理物質の病証
精 〈虚証〉
●精が不足した病証を精虚(腎精不足)という。
●精虚の症状には、発育不良や不妊・耳鳴・健忘・虚労・白髪・脱毛・歯や骨の軟弱化・難聴・尿漏れがある。
●精には実証は無く、産まれた時から少しずつ先天の精が減っていき、後天の精で補いながらも、精は減少して精が尽きた時に死を迎える。
気 〈虚証〉
●気の虚証には、気虚、気陥、気脱がある。
●気虚とは、気の不足の状態。
●気陥とは、気虚+気の上昇不能(下に落ちる現象)の状態。
●気脱とは、気虚が極限まで悪化した状態。
精の虚証による症状
気虚 | 倦怠感、無気力、眩暈、息切れ、懶言、自汗、易感冒、活動時症状増悪 |
気陥 | 気虚の症状、内臓下垂(胃下垂、脱肛、子宮脱)、慢性の下痢 |
気脱 | 浅い呼吸、意識を失う、顔面蒼白、四肢の冷え、強い自汗、脈弱 |
気 〈実証〉
●気の実証には、気鬱、気滞、気逆がある。
●気鬱とは、気機が欝結し、経度の循環障害が起こった状態。
●気滞とは、気鬱が発展し程度が強くなったものをいう。
●気逆とは、気の上昇が過度となり、下降運動が不十分であるために気が逆上した病態のことである。
気の実証による症状
気鬱・気滞 | 脹痛、胸悶・胸脇部痛、腹部の膨満感、抑鬱感 |
気逆 | 易怒、頭痛・眩暈、咳嗽・喘息、悪心・嘔吐・噯気、吃逆 |
血 〈虚証〉
●血の虚証には、血の不足による血虚がある。
血の虚証による症状
血虚 | 眩暈・顔面蒼白、動悸・不眠・健忘、しびれ・痙攣、目のかすみ・ 視力減退、爪の変形、経色淡白・経少・月経痛、脈細 |
血 〈実証〉
●血の実証には、血瘀と血熱がある。
●血瘀とは、血の運行が緩慢になったり、停滞している起こる病態をいう。
●瘀血とは、滞った血のことで、病理産物である。
●血熱とは、血が熱を受けた病態であり、心神への影響、血の運行の乱れ、陰液の損傷の3つに大別される。
血の実証による症状
血瘀 | 固定痛・刺痛・夜間痛、腫脹・腫塊、紫舌・暗紅舌・瘀斑・瘀点・皮下出血斑、シミ・色素沈着、肌膚甲羅錯、月経痛・血塊が多い |
血熱 | 発熱・発赤・発疹・痒み、出血、潮熱・五心煩熱・盗汗・口渇、心煩・不眠・精神不安 |
津液 〈虚証〉
●津液が減少し、量的に不足した病態を津液不足という。
津液の虚証による症状
津液不足 | 口や咽喉の乾き、皮膚や髪の乾燥、乾燥便や尿量の減少 |
津液 〈実証〉
●津液が停滞し、人体に不要となった水液は、病理物質に変化する。その形体に応じて湿、水、飲、痰と呼ばれる。
●湿は、多湿や降雨などの環境要因で増悪することが多い。
●湿、水、飲、痰は明確に区分することができないことが多いため、病態を総称して痰湿とする。
津液の実証による症状
痰湿 | (湿)身体の重だるさ、浮腫、下痢など、(飲)腹鳴・動悸・喘息・浮腫など、(痰)咳嗽・動悸・眩暈・頭痛・意識障害・精神障害など、食欲不振・皮膚疾患・運動障害・腫瘍 |
陰陽の生理と病証
生理
●人体の生理作用における陰とは、血・津液・精による滋潤作用と寧静作用を表す。
●人体の生理作用における陽とは、気による温煦作用と推動作用を表している。
●陰の機能が低下した状態を陰虚という。
●身体を冷やす力(陰)が旺盛になった状態を陰盛という。
●陽の機能が低下した状態を陽虚という。
●身体を温める力(陽)が旺盛になった状態を陽盛という。
●寒熱の状態では、陰虚は虚熱、陰盛は実熱、陽虚は虚寒、陽盛は実熱という。
陰陽の虚証
陰虚(虚熱) | ほてり、のぼせ、五心煩熱、手足心熱、盗汗、頬部紅潮、消瘦があり 舌質紅、舌苔少、脈細数 |
陽虚(虚寒) | 寒症状(寒がり、四肢の冷え、顔面蒼白、腹痛・下痢、小便清長、脈遅)+気虚症状(自汗、精神疲労・倦怠感、食欲不振、息切れ、脈弱)、脈は弱・遅を呈する |
陰陽の実証
陰盛(実陰) | 寒がり、四肢の冷え、顔面蒼白、疼痛、下痢、小便清長、 脈は緊・遅 |
陽盛(実熱) | 身熱、顔面紅潮、口渇・冷飲を好む、煩燥・多言、小便短赤、便秘、 舌質紅・舌苔黄、脈数有力 |
神の生理
●神とは、広義では生命活動の総称であり、狭義では精神・意識・思惟活動を指す。
●神の機能は、五神と五志に大別される。
●五神とは、魂・神・意・魄・志である。
●五志とは、怒・喜・思・憂・恐である。
●七情とは、怒・喜・思・憂・悲・恐・驚である。
●五志と七情に含まれる情動・情緒を総称して情志という。
五神の関連する五臓と精神活動
五神 | 五臓 | 精神活動 |
魂 | 肝 | 評価・判断 |
神 | 心 | 身体・精神活動 |
意 | 脾 | 思考・推測・注意力・記憶 |
魄 | 肺 | 感覚・運動 |
志 | 腎 | 記憶の維持、思考を経験として蓄積 |
五神の機能失調による症状
魂 | イライラする、怒りっぽい、思い悩む、オドオド・ビクビクする |
神 | 意識混濁、発語・行動・情動に異常、暴力的衝動、行動の一貫性を失う、ぼんやりする |
意 | 思考がまとまらない、順序立てて話ができない |
魄 | 視覚障害、耳聾、味覚の鈍麻、皮膚感覚の消失、幻覚、幻聴症状を引き起こす |
志 | 健忘、物事をやり遂げられない、目的を持った行動が取れない |
七情
怒 | 気を上昇させる |
喜 | 気を緩ませる |
思 | 気を欝結させる |
憂 | 気を鬱滞させる |
悲 | 気を消耗させる |
恐 | 気を下降させる |
驚 | 気を乱れさせる |
五行色体表
五行 | 木 | 火 | 土 | 金 | 水 |
五方 | 東 | 南 | 中央 | 西 | 北 |
五色 | 青 | 赤 | 黄 | 白 | 黒 |
五時 | 春 | 夏 | 長夏 | 秋 | 冬 |
五能 | 生 | 長 | 化 | 収 | 蔵 |
五気 | 風 | 熱(暑) | 湿 | 燥 | 寒 |
五臓 | 肝 | 心 | 脾 | 肺 | 腎 |
五華 | 爪 | 面・色 | 唇 | 毛 | 髪 |
五官 | 目 | 舌 | 口 | 鼻 | 耳 |
五液 | 涙 | 汗 | 涎 | 涕 | 唾 |
五味 | 酸 | 苦 | 甘 | 辛 | 鹹 |
五体 | 筋 | 血脈 | 肌肉 | 皮 | 骨 |
五神 | 魂 | 神 | 意 | 魄 | 志 |
五志 | 怒 | 喜 | 思 | 憂 | 恐 |
五労 | 久行 | 久視 | 久坐 | 久臥 | 久立 |